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小屋の旅 007(黒い小屋)

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7.黒い小屋

 普段はまったく目立たない小屋であっても、雪が降ると見ちがえるほどの存在感を見せることがあります。そもそも小屋そのものはスケールが小さく、その性格から自己主張とは無縁の建物で、また、ことさらかっこよく見せるひともいません。それが小屋ならではの持ち味であり、おもしろいところです。能登方面へはよく行きますが、外壁などの色の使い方ひとつとっても、全体的に地味なものが多いように感じます。遊び心よりも真面目さが優先され、小屋自体も住宅のように本格的な建物にしたがる傾向が強いようです。雨や雪が多い北陸の気候風土、海からの潮風なども関係しているのかもしれませんが、そんな能登の小屋のひとつが、この「黒い小屋」です。

 氷見市から山越えで羽咋市へ抜ける国道415号沿いにある黒い小屋は、バックにひな段状に何層も積み上がった巨大な棚田の擁壁が迫り、小屋はその最下部の川の淵に建っています。棚田を背負っている小屋ですが、全身、黒色で統一し、スキのない優等生的な雰囲気を漂わせています。新緑の春でも、濃緑の夏でも、さらには紅葉の秋にあっても、小屋の風景としては悪くありません。それでもやはり、屋根に薄らと新雪が積った冬の美しさにはかないませんね。

 この小屋がある羽咋市の神子原(みこはら)地区は、高野誠鮮氏の『ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか』という本の舞台になった集落で、能登でも海から内陸に入った中山間地に位置し、棚田がたいへんに美しく管理されています。昔から能登の種籾産地を担ってきたところだそうで、うまい米が採れるところです。この小屋は、その神子原の外れにありますが、作業用か、あるいは農機具を格納しておく納屋として使われている現役です。

 小屋でもこれぐらいのボリュームになると、素人で建てるのは難しく、当然、大工さんの手を借りることになりますが、外観はごくシンブルなかたちのもので、いたって使いやすそうな感じです。外壁の塗装は、華やかな青とか赤ではなく、また逆に地味なグレーでもありません。波トタンの上に黒色のコールタールが塗られています。サビに強いことからコールタールが選ばれているわけですが、かつてはよく使われていた懐かしい塗料です。周囲からの自立性、絶対的、拒絶、沈黙といったイメージが黒色にはありますが、間近に迫りくる巨大な棚田の擁壁を背に、川の崖っぷちに仁王立ちをしている小屋を考えると、うまい具合に黒になったものだと思います。状況にドンピシャで、非常によく合っています。見ていても安心感がありますね。ちなみに能登という土地柄ですが、これを色で表わすと、おそらくこれも黒色だろうと思います。輪島塗も漆黒が魅力的ですし、能登一円でおこなわれている夏の「キリコ祭り」の行灯も夜の闇に乱舞してこそ響いてくるものがあります。そんな能登の黒い小屋は、純白の雪がいちばんよく似合いますね。