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小屋の旅 010 (どじょうすくいの小屋)

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10.どじょうすくいの小屋

 この1.5m四方ほどの小さな小屋は、垂木と貫の建築材で骨組みを造り、正面はポリカーボネートの透明な波板、屋根や側壁などは白いテント用シートでおおっています。建築基準法建築士免許といった制約から完全にフリーな小屋は、「収納スペースがほしい」と思ったら、いつでも、どこでも、だれでも造れる手軽さがあって、それがいろんなかたちの構造物を生みだす原動力になっています。写真の小屋は、テント用のシートを使っているところに特徴があります。

 シートをかぶったこの小屋、見た目のデザインはそれほど優れているとは思いませんが、どこかユーモラスで、胸元がひもで開け閉めできるようになっているなど、なかなかおしゃれな一面もあります。そして、手ぬぐいでほおかむりをした表情を連想させ、八木節の男踊り「おやじどこへ行く 腰にかご下げて 前の川にどじょうとりに」でおなじみの扮装によく似ています。どじょうすくいをしている小屋ですね。

 かつては農作業をはじめ、アウトドアで働く現場の定番スタイルだったほおかむりは、防寒用にきわめて優れたかぶり物で、実際に手元にあるタオルを使ってほおかむりを実践してみたところ、耳元からから頭部まですっぽりと包み込まれ、想像以上に温かく、また大変に心地よいもので、病みつきになるほどの快感が得られます。おそらく帽子などはとても足下にも及ばないほどの機能性だと思います。また、たんに寒さをしのぐだけではなく、あごのところでキュッと結ぶことで、鉢巻きとおなじ効果で気持ちが引きしまり、「さあ、頑張るぞ!」といったモードにしてくれる働きもあります。あの滑稽なほうかむりからは想像もできないほどの高い精神性を備えています。このようなほおかむりは、まちがっても家でリラックスしているときにするものではなく、仕事やスポーツなど、なにかを真剣に遂行するときに着用するものであることがよく理解できます。そこで写真の小屋のほおかむりですが、こちらは寒さの予防や畑仕事に向けて戦闘意欲を高めるのが目的ではなく、建築工事の省力化、ローコスト化へのいちずな取り組みが、このようなかたちにしたようです。

 小屋の持ち主は、はじめからほおかむりの小屋にしようとは考えていなかったと思います。正面の波板のところだけを見ると、全体のバランスからみて不釣り合いなほど几帳面に造られ、前壁部といいドアといい実にていねいで、持ち主の四角四面な性格がよくでています。室内にほうきがぶら下がっているのが見えますが、狭い小屋内を掃き掃除をしている様子までうかがい知ることができます。このような細かいところまで完璧にしないと気がすまないひとが、屋根や側壁の処理をシート1枚で「よいしょ」とやっている、このギャップがあまりにも大きく、勤勉実直なひとが、突然どじょうすくいを踊りだしたようなおかしさがあります。あっぱれ!「どじょうすくいの小屋」ですね。