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小屋の旅 014 (植物園の小屋)

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14.植物園の小屋

 スイセンの背後に見えるハウスは、氷見市海浜植物園にある小屋で、展示植物を育てる育苗施設として使われているものです。白砂青松の松田江浜に建設された同園は、ポストモダンの建築家・長谷川悦子氏の設計による迫力ある造形が目玉で、平成8年の竣工からかなりの年月を経た現在でもそれほど違和感はありません。ただ、問題はクセのあるこのハードをどのように使いこなすかですが、こればかりは、地方の小さな町でうまく生かしていくのはいかんともしがたいところがあるようで、それなりに考えさせられる植物園になっています。そんな園内の裏地にあるのがこのハウス小屋です。

 小屋というには少し大きすぎますが、屋根も壁も総ガラス張りの温室ハウスで、海へ向かって突き出したアクロバチックな本館とは異なり、こちらはきわめて普通の建物です。ただ、その湾曲したガラスの壁面いっぱいに夕日が映り込むと、大きく表情を変えます。ハウスは植物園のバックヤードなので一般には公開されていませんが、夕日を浴びると舞台の主役に躍り出るほどの生気がでて、それを見ていると「ハウスのなかに入ってみたい」と思わせる求心力を帯びてきます。

 おそらく建物の設計においては、その土地の情報をいかに集めるかが大きなテーマというか仕事になると思いますが、この植物園にあっては、“朝日”や“夕日”といったコンセプトがあってもおもしろい植物園になったと思います。日が昇る時間帯にここを訪れたことはありませんが、夕日を浴びるころには独特の雰囲気に包まれます。平板な日中の光とは異なり、朝や夕方の日差しにはひとの情感に訴えるなにかがあるようで、また植物園だけに施設にガラスを多用していることや、海岸に隣接し、浜辺の植物に熱帯・亜熱帯の植物を展示していることなどを考え併せると、なおのことそのように思います。

 写真のスイセンは、バックヤードと駐車場の境に植えられ、ひと目につく場所にあるにもかかわらず、「わぁ、きれい!」「美しいわね!」と、声をかけてもらう機会はほとんどありません。よく「植物にやさしい言葉をかけながら育てると、よく育つ」といった話を耳にしますが、植物園の駐車場の花にはそれは望めません。それでもスイセンはその季節になると見事な花を咲かせます。北陸でスイセンといえば古くから越前海岸の自生地が有名で、大陸から流れ着いたという説もあるようです。そうだとしたら東尋坊に代表される険しい海岸沿いを選んでよくぞ定着したものだと感心します。しかも寒風吹きすさぶ日本海の冬に花を咲かせるといいますから、「そんなに厳しい環境のなかでどのように咲いているのか」と、興味をおぼえます。一方、写真のスイセンは植物園の裏手の駐車場脇という、これまた園内ではいわば辺境の地に咲く花で、ある意味、越前海岸のスイセンと似たような立場だといえなくもない、と思ったりもします。