読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

小屋の旅 015 (山里の小屋)

f:id:koya-tabi:20160408200639p:plain

14.山里の小屋

 写真の小屋があるところは、能登半島の付け根に位置する氷見市でも山奥の中山間地で、季節は3月から4月ごろにかけてのごくありふれた風景です。近年の暖冬の影響か、道の両脇にはすでに雑草が顔を出しています。長い冬を経て春を迎えると真っ先に目にするのがこの植物群で、別に待ちどうしいというほどのものではありませんが、それでもどこか懐かしいというか、ホッとしたうれしい気持ちもこみあげてきて、複雑な心境にしてくれます。山里ではいよいよこの生命力にあふれた雑草との格闘シーズンを迎えますが、そんな序曲に立つ小屋です。

 集落から少し離れた棚田の入口にあるこの小屋は、トラクターなどの農機を格納しておくための施設と思われ、鬱蒼とした森を抜け、前方に広がる明るい風景が印象的です。どうもこの建物は“場所性”に特色があり、青いトタン屋根がよく目立つことや、棚田への入口という境界に立地することなどから、地域の一里塚のような役目をはたしているようです。村境や峠、三叉路に祀った石像に、厄除けや五穀豊穣を祈願する「道祖神」「地蔵」「サイノカミ」といった古い風習を想起させるものがあって、この小屋が立つ位置に道祖神が祀られていてもおかしくない、そんな場所だと思います。もちろん小屋の持ち主はそのようなことを念頭にここを選択したわけではなく、おそらく、だれが建ててもここを選んでしまうポジションにおさまっている、そのような小屋ではないでしょうか。

 外壁はクリームとブラウンの2色のトタン廃材をうまく組み合わせ、落ち着いた配色にしたうえ、屋根をブルーの波トタンでアクセントをつけるなど、けっして贅を凝らした造りではありませんが、センスのよさがうかがえます。屋根や壁が汚れてくすんでいるところなども、こうして見るとなかなかいい調子です。着こなしがじょうずなわけで、それに加えて小屋にしては土台部分がしっかり造られ、屋根と基礎まわりにコストをかけた模範的な建物になっています。おまけに手入れや建物周囲の草刈りといったメンテにもぬかりがなく、持ち主の堅実な人柄がなんとなくでています。

 「近づく春」を、気温の上昇や日差しの強さなどで察することができます。これは市街地でも山里でもみな同じですが、山里ではもうひとつ、野や山の色合いが徐々ににぎやかになってくることで、春の訪れを知ることができます。冬に色が消えて世界がリセットされ、それが春になると木々の芽吹きにはじまって花々が咲き、緑、赤、黄など、いろんな色がゆっくりと強度と量を増しながら蘇ってきます。色にもエネルギーがあり、それに促されるように小鳥やカエルなどの動物たちのざわめきも湧いてきて、それこそ過疎地であっても活気みなぎる季節がやってきます。自然が動いている、自然が生きているといった騒々しさにつつまれる山里の春ですが、この小屋はそのような営みを静かに眺めながら佇んでいるかのようです。