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小屋の旅 024 (悟りと小屋)

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24.悟りと小屋

 長野県の松川渓谷は紅葉がすばらしいと聞いていましたが、実際にいってみると、なるほど鮮やかというか、ひと味ちがったところがあります。実家が志賀高原だというかたによると、紅葉は志賀より松川渓谷のほうが美しいような気がするそうで、地元のひとの話などでは、色の鮮やかさは木々の樹種が多いからではないかとのことです。いろんな色が混ざり合った多様性による絶景なのでしょうか、もう、紅葉も終わりという時期に訪れたのに、なお鮮烈な印象が残るその松山渓谷の麓で見つけた小屋です。これもたいそう大げさな写真ではありますが。

 山の紅葉が谷になだれ込むようにかけおり、そこに一棟の小屋がなにくわぬ顔をしてたたずむ姿は、「あなた、うしろの山に、どつかれそうですよ!」、「それがどうかいたしましたか?」といった、どこかひとごとのような悟りきった小屋です。この小屋の手前には少しばかりの田んぼが広がっていますが、あたりは水田のほかに民家などはそれほどありません。春や夏などのシーズンにもここを訪れたりしますが、そのときは当然のことながら紅葉はまだですから、背後の山の存在はまったく意識外で目にはいってきません。ただ、田の稲穂が色づくと、そちらと小屋がとてもいい雰囲気になって、これは秋とはまたちがった風景をつくりだしています。

 小屋そのものは、建てるのにそれほど“頑張りました”という、気負ったところがなく、屋根と外壁にトタンを張って、ハイ!完成といった類いです。しかし、その肩の力を抜いたところが、襲いかかる山の紅葉ともうまく折りあって、ぎくしゃくしたところがありません。土木建築に経験のあるひとが、手元にあるハザギやトタンの廃材などを使って巧みに組み立てた小屋のようで、手際のよさのようなものを感じます。素っ気のないつくりですが、ただ、それだけで終わっていないところが、この小屋のいいところのようです。

 あとづけの妙とでもいうのか、小屋の使いかたがたいへんに上手なようで、建物の左側にベニヤ板でフタをし、そこに無造作に何枚かの板きれを立て掛け、右側にはなにやら丸太で軒を支えています。これらが単調なデザインになりやすい小屋に変化を与え、くわえて色あせたブルーのトタンの色合いなど、よくぞこのような調子になったものだといいたいほどです。そして白っぽい波板をチラリと見せて全体にメリハリをつけてまとめています。屋根の傾斜なども左右を微妙にちがわせていますが、おそらく、建て主はなにも考えずに小屋を造り、何も考えずに小屋を維持しながら使っているのだと思いますが、日常の暮らしかた、美的センスがそのまま小屋に素直に反映されていて、見飽きない気持ちのよさがあります。ただ、用途がもうひとつわかりませんが、おそらく農機具などをしまっておくところなのでしょう。