小屋の旅 025 (海の小屋)

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 25.海の小屋

 能登半島の海は、日本海の大海原に面した気性の激しい「外浦」(門前、輪島など)と、波おだやかな富山湾側の「内浦」(七尾、穴水など)とに大別され、ふたつの相反する顔をもっています。実際に門前や輪島あたりの海では、身の危険を感じるような凄まじい荒れようなのに、そこからクルマで30分ほどの穴水の海は、今までの恐怖的な海はなんだったのかと思うほど、おだやかな凪の世界が広がっていたりします。この怪奇現象にも近い極端な落差を観光資源に活用すれば、ずいぶんとおもしろいと思いますが、写真はその静寂な内浦の海のなかに建てられた船の小屋です。

 また、能登といえば祭りと伝統芸能が自慢の土地柄で、荒れ狂う外浦の荒波をその芸能にたとえると、おそらく鬼面をつけて狂ったように太鼓を打ち鳴らす輪島の「御陣乗太鼓」だろうと思います。男鹿のナマハゲに太鼓を持たせたようないささか騒々しいものですが、権力におびえながら威嚇するといった太鼓の演技が観光客に好評で、能登の大名物になっています。その恐ろしげな面をはずすと、そこから普通の漁師の顔がでてきたりするわけで、さしずめ波静かな内浦の海は、鬼面をとったおじさんの表情といったところでしょうか。

 写真の小屋は、ある意味で内浦の海を象徴する建物のひとつだと思います。というのは、湖沼や川は別として、海のなかにこのようにDIYで建物を組み立て、船が係留できる小屋というのは、ありそうでない光景ではないでしょうか。潮位の差が大きい太平洋側などではなかなか難しいでしょうし、同じ能登半島でも、波の荒い外浦の海では、建てても1日ともたないでしょう。年中海がおだやかで、潮位の変化が少ない能登の内浦だからこそ、可能になった小屋というわけで、国内でも特徴のある小屋のひとつだろうと思います。

 クルマのガレージにもこのような屋根だけのものがありますが、この小屋の場合は船本体と、その船に積んである漁具などを雨雪から守るための施設のようです。地元のひとの話では、もともとカキの養殖に使っていたとのことです。大胆にも手作りで海にこのようなものを建てるなど、最近では考えられませんが、皮肉なことに、これからの時代はむしろこのようなものにこそ、価値がでてきたりします。川岸に仮設の座敷を設けて料理を提供する「川床」というのが、京都の鴨川などにあります。能登の内浦の海でも、写真の小屋をお手本に、“海床”で観光客を呼び込めば、能登名物になっておおいににぎわうはずです。内浦は、夏はもちろんのこと、雪がちらほらと降る冬の季節でも、情緒ある海床でやっていけますし、その席に余興として「御陣乗太鼓」のライブでもやれば、これはもう鬼に金棒というやつで、能登半島最強の観光スポットが誕生、というのは、“とらぬ狸の”なんとやら、でしょうか。