小屋の旅 041(晩秋の小屋)

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晩秋の小屋

 40回で途絶えて久しい「小屋の旅」。あれから数年が経過し、この間、世の中の小屋への関心はむしろ高まっているかのようにもみえます。ただ、その人気の小屋は、倉庫や物置、作業小屋といった一般によく目にするものではなく、最小の居住スペースとしての小屋、タイニーハウスやスモールハウスと呼ばれているものです。そのような小さな建物にはこれといった定義はなく、「床面積がおおむね20㎡以内」、短期間すごす「小さな家」を指すようです。そのほとんどが住宅基準法の適用外になるために、だれでもどこでも自由に造られます。デザインも作業小屋のような自然発生的なデザインではなく、見た目や体裁も住み心地のひとつなので、人為的に創意工夫が施されたものが多いのはいうまでもありません。写真の小さな小屋は、まさにそのような週末住宅としてのタイニーハウスのようで、季節は紅葉も終わりに近い11月ごろ、新潟で見かけたものです。

 

 小屋は、どちらかというと波トタンを使った手作りのもの、朽ちかけたヨレヨレのものなど、その土地に同化しきったものが多かったわけです。そんななかで、この写真の小屋を目にしたときは「おやっ」と、新鮮な印象を受けたものです。作業小屋や物置にしては窓の外にウッドデッキがあるなど、どう考えてもひとが住むように造られています。だが、普通の住宅にしてはあきらかに小さすぎで、家というには不自然です。全体的にこぎれいな洋風スタイル、無駄のないシンプルな造り、キットを組み上げたプラモデル感覚、おもちゃっぽくて暮らしを離れた非日常の空気も持ち合わせるなど、やはりセカンドハウスといったところです。

 

 ケビンやバンガローといったものを、本来あるべきキャンプ場などからここへ一棟だけ運んできたような感じですが、キャンプ場ではなく、こうして現実の生活空間のなかで見てもなかなかいい雰囲気です。外観の色使いなどはむしろ控えめの落ち着いたトーンに統一されていますが、それがかえってざわついた森の紅葉に引き立てられ、くっきり浮き上がってみえます。集落から離れたところにぽつんと一棟だけ置かれていますが、おそらく背後の里山とも関係があるのでしょう。そうでもなければ、このようなところにこのような小さな小屋を建てることはないはずです。休日の山仕事、菜園、家族といったことを、あれこれイメージできる反面、不思議とそのような楽しい活動の様子、生活のノイズのようなものが聞こえてきません。どこかストイックなところがあります。
 


 セカンドハウスなのに、遊びのような無駄なものがない、笑いの要素が皆無というのはやはり気になるところです。周囲とのちょっとした緊張関係、きっと、この建物の置かれた環境がそうさせているのでしょう。村境に建っていますが、その村へ通じる幹線道路沿いにあってけっこう衆目の集まる場所です。外からやってきたセカンドハウスとしては、常に襟を正してコミュニティの空気を乱さないように気を使っている、そんな背景があるのかもしれません。小屋に薪ストーブ用煙突の一本もあると親しみやすさが出てきますが、ただ、それでは普通のありふれた小屋になってしまい、いささかおもしろくありません。ただ、この小屋に煙突が見られないのは、きっと豪雪地帯なので冬は小屋を閉鎖して暖房設備そのものが必要ないのでしょう。まわりとの親和性に一定の距離をとりながら地域に溶け込んでいる様子が感じられます。窓には雪の備えと思われる桟を打ち付けてあるところをみると、冬支度もすでに終えているようです。これから本格的な雪のシーズンを迎える晩秋の小屋といったところでしょうか。