小屋の旅 042(旅する小屋)

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42.旅する小屋

 キャンプ場にトレーラーだけを置き、牽引してきたクルマで周辺の観光にでも出かけているのでしょうか。キャンピングカーでも、旅先で自由に動き回れるのが、このトラベルトレーラーのいいところです。まさに「動く住まい」そのもので、能登の道の駅でも、犬が大型トレーラーにつながれて留守番をしているところを見かけたことがあります。そのトレーラーに寄っていくと、“近寄るな”とばかりに吠え、まじめに犬がご主人のために尽くしていましたが、このような「動く住まい」をベースキャンプにした旅は、最高の贅沢ではないでしょうか。写真のトレーラーは、飛騨のキャンプ場の入り口付近に置かれたものです。大自然の気配がかろうじてトレーラーまで届いているといった森の場末にあたるところで、それでも森のなかでの休息の様子がそれとなく伝わってきて、眺めているだけで、こちらまでがいい旅気分になります。 

 

 キャンピングカーには、ワゴンやトラックなどを改造した自走式と、コンテナーをクルマで牽引するトレーラーの二つのタイプがあります。日本RV協会の調査では、前者が圧倒的に多く、写真のようなトラベルトレーラーは少数派とのことです。重量が750kg以下の小型トレーラーは、牽引免許がなくても引くことができますが、S字カーブやバックをさせる際など、牽引車ならではの運転の難しさがあるようです。ただ、それも「30分も練習すればOK」といったコメントもネットでみられます。トレーラーでもうひとつ困るのは駐車場で、牽引車+トレーラーの2台分のスペースがないと利用できません。また、日本でこのタイプが普及しないのは坂道が多いからといった指摘もあります。たしかにトレーラーを牽引して坂道を下るのは、慣れるまではかなり神経をつかうと思います。このような問題さえクリアできれば、エンジンや運転席などが付いていないだけに、コストパフォーマンスが高く、同じ価格帯なら自走式の3倍の車室空間を確保できるといわれ、欧米のキャンピングカーはむしろトレーラーのほうが主流だそうです。

 

 旅行やキャンプなど、キャンピングカーはレジャー用のクルマといった印象があります。実際に大半はそのような使われ方をしているのでしょう。ところがトレーラータイプは無理としても、バンやトラックなどを改装した自走式のキャンピングカーは、通勤や買い物の足としても十分に使えるといった意見があります。そういわれてみれば、改装しても車高は若干高くなるかもしれませんが、車幅や運転の仕方などは元のクルマと変わらないわけです。キャンピングカーをレジャー専用車と考える必要はどこにもなく、むしろこのようなクルマを普段使いにしてこそ楽しく、新しい発見や体験が待っているというものです。移動と宿泊が自由にできて、平々凡々な日常生活のなかに遊牧の民、放浪の旅人といったロマンを持ち込んでくれます。クルマを持つのなら、世間一般にあてがわれたといってはなんですが、型にはまったミニバンやSUVよりも、キャンピングカーのほうが、暮らしを変えてくれる力があるように思います。 

 

 朝日新聞のあるアンケートでは、暮らしの中で「防災対策をしている」ひとが77%という、ちょっと驚く高い結果が出ています。たしかに台風や地震、土砂崩れ、洪水など、いまや日本列島は災害が多発し、どこにいても安心ができません。最近では、そんな万一の際に身を守るシェルター、避難所としてキャンピングカーが脚光をあびています。「動く避難所」です。また、写真のトレーラータイプなどは、自走式とはちがった発展も考えられます。家の駐車場や前庭などにトレーラーだけを止め置き、その車室空間を家の空間の一部として取り入れて住居にするもので、家との融合です。本体がクルマメーカーのトヨタホームなどは、住宅の間取りにトレーラーを組み込んだハウス+キャンピングカー住宅などを販売するなどしてもおもしろいと思います。住宅の一部を切り離すとトレーラーになって旅に出かけ、帰ったらまた住まいの一部として使う、そして災害時に救急の避難所になるといった住宅です。国土強靭策を掲げる国も、このような住宅に手厚い補助金を出して後押しをすれば、一般にも広く普及し、そうなるとわが国の旅行の形態、さらにはライフスタイル、国民性までもが大きく変わってくる可能性が考えられます。まさに、結構毛だらけ、猫灰だらけといったところではないでしょうか。