小屋の旅 045(能登のバス停)

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45.能登のバス停
 能登半島の海沿いのバス停ですが、これも小屋のひとつだろうと思います。築後まだ日が浅く、規模は間口2m、奥行き1.5mほどで、室内に4脚のイスが肩を寄せ合って並ぶ小さな建物です。柱などのフレーム材は、なぜか非常に目立つダークグレーのアルミが使われています。鉄のような色調ですが、おそらくアルミの素材だと思います。ガードレールや背後の鉄の垣根などの色合いをみると、それらは風景のじゃまにならないようにとの配慮が、なんとなく見て取れます。ところが、バス停の建物はそのようなこころづかいを見事にぶち壊し、おだやかな七尾湾に一石を投じるかのような、強い存在感を示しています。

 

 このバス停、「全面ガラス張りのショーケース」と表現しても、けっしてまちがいではありません。ただ、一般的なガラスケースのイメージとはいささか異なり、どうみても骨組みだけが際立つ鉄の箱です。なぜこのような色使い、骨組みを強調したデザインになったのかと思ったりもします。これがこのバス停の特徴のひとつですが、実はバス停があるということは、それを利用する人がいて、付近にまとまった住宅が存在します。能登の黒い屋根瓦に黒っぽい板壁の家々は、どちらかというと重々しい集落風景です。その伝統的な民家の横にこのバス停を置いてみると、なるほど違和感なく溶け込む感じがします。写真はそのような家々を省略し、バス停だけを抜け出したことから起こった不自然さのようです。また、このフレームを強調した造りからは、北陸の民家の柱を連想します。柱を意匠として見せる真壁工法では、昔から白い無垢材ではなく、湿気対策などから柱に漆などの塗料を塗った茶褐色の柱を使うのが一般的です。そのような伝統の下敷きがあって、枠組みだけがやたらと目立つバス停が生まれたのかもしれません。

 

 それでもやっぱり気になるバス停です。ネットでバス停を検索すると、全国各地のバス停がたくさん出てきます。それらとこのバス停を比較すると、たしかに少し異色の部類に入るということがよく理解できます。何がそんなにちがうのか。一般にバス停の構造は、もっと開放的な造りのものが多く、どちらかというと鉄道駅のプラットホームに近いもので、支柱に屋根だけがのっかったバス停も珍しくありません。風よけとして周囲に壁を廻らしても、人が出入りする正面は開けっ放しのものがほとんどです。最近のバス停はなおのことシンプルな造りになっています。そんななかで、この能登のバス停は、ガラスで覆われた完全な密閉空間です。頑固というか、時代の流れに逆らった意固地なところは能登の気質といえないこともなく、その意味では伝統に根ざした能登らしいバス停だといった解釈も成り立ちます。

 

 伝統が息づくガラスのバス停ですが、どれだけ見ても、窓らしいものがどこにもありません。入口の引き戸が唯一の開口部のようですが、背後の海側にも左右の側壁ガラスにも開け閉めできるような構造は見当たりません。これでは冬はいいとしても、夏の室内はサウナ状態で、椅子に座ってバスの到着を待っていると、やがてやって来るのはバスではなく、熱中症だったりしないかと、本気で心配になります。北陸の夏は予想以上に蒸し暑く、7、8月の日照時間など、太平洋側の東京よりも多いのが現実です。窓のひとつもあれば救われるはずですが、おまけにといってはなんですが、太陽の日差しをさえぎる日除けもなく、これでは猛暑からの逃げ場がありません。どうしても夏の利用が気になりますが、やはり冬の対策のほうが、より重要なのか、あるいは、過疎地ゆえ、バスの本数が少なく、利用のほとんどが涼しい朝に限られることから、暑さ対策そのものがいらないのかもしれません。