小屋の旅 046 (自販機と小屋)

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46.自販機と小屋

 鉄道の駅構内や病院、劇場などでよく見かける「売店」。これも小屋の一種で、なかでもキヨスクはその代表格といえる存在です。写真は群馬県「道の駅八ッ場ふるさと館」に併設されたファーストフード店ですが、建設の是非でもめたダムはいまや立派な観光名所にもなっていて、写真は数年前の秋に撮ったものです。道の駅には、ダム資料館、農産物直売所、レストランなどが入った本館と足湯、それに170台収容の駐車場が整備されています。その道の駅を構成するひとつとして、敷地の片隅にファーストフードの出店があります。まわりが大自然に囲まれているうえ、コンビニや川原湯温泉なども控えており、旅人の車中泊にはもってこいの道の駅です。

 

 売店の建物は屋根が後方に傾いた片流れの形式で、小さいにかかわらず正面から見ると迫力があります。その店のファサードにメニューが写真とともに一覧で並び、建物とメニュー表が合体した、なんとも合理的な姿をしています。これだけメニューがわかりやすく、大きく表示されていると、窓口で値段や内容をいちいちスタッフに確認しなくてもよく、「アイスクリーム2個」とか「ウィンナー4個」といった調子で、一言二言の会話で売買が成り立ち、駅構内の立ち食いうどんの店と似たスタイルです。ファーストフード店の隣にガーデンパラソルとテーブルが置かれ、そこでゆっくりと食べることもできますが、これなどもプラットホームの立ち食いうどんの店のまわりにそれとなく配置された長イスと符合します。

 

 ただ、列車の発車時刻を頭の隅に置きながら素早く食べる立ち食いうどんは、なによりもメニューの選択で迷ったり、勘定でもたつくタイムロスを避けた事情があることから、売店側としては、なにを食べさせる店であるかの識別に次いで重要になるのがメニューと料金で、入口正面にそのふたつを大きく掲示するのは理に適っています。一方、八ッ場ダムの道の駅の場合、休日に家族で利用するなど、いそいで食べる理由がどこにもなく、立ち食いうどんとはかなり立ち位置がちがいます。メニュー表が店の顔としてファサードを飾るというのは、なにかほかに理由があるのかもしれませんが、それにしても見れば見るほどおもしろい風景に思えてきたりします。

 

 看板といえば、珍妙で奇抜な大阪・道頓堀の立体看板を思い浮かびますが、これが界隈に祭り空間をつくりあげています。八ッ場ダムの“看板売店”はそのような遊びの要素をすべてそぎ落としたうえで、合理的なものを大胆に付け加えたこれまた特別な表情をしています。「売店」を突き詰めていくと、見えてくるのは路上にモノを並べて売り買いする露店で、高山や輪島の朝市、さらには「男はつらいよ」の寅さんの世界となって、売るほうも買う側も、多少はいかがわしいことはわかっていながら売り買いを楽しむ場です。「遊び」の対義語は「労働」「仕事」「勉強」だそうですが、リフレッシュを図るためには、遊びのムダな要素があったほうがよく、休日にも合います。このダム湖売店はといえば、そのような遊びの方向ではなく、めざしているのは自動販売機の世界のようです。自販機になりたがっている売店、といったところでしょうか。写真にはひとがまったく写っていませんが、実際は窓口に順番を待つ列ができて大変な盛況、にぎわいだったことをおぼえています。