小屋の旅 002 (光の小屋)

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2.光の小屋

 能登半島は日本海に面した国道沿いの「光の小屋」です。土曜日の天気のいい昼過ぎに撮った写真ですが、休日ともなるとこのようなバイクでツーリングを楽しむ姿をよく見かけます。海岸線を縫うように続く道は、ドライブを楽しむにはいいコースで、気分転換にはもってこいのようです。ことに富山県能登とのあいだに自動車専用道路が開通したおかげで、海沿いのこの国道は、走るクルマが極端に減って、よそ見しながらのんびりドライブが楽しめます。

 実はこの国道沿いにあった小屋は2、3年前に解体され、いまは跡形もありません。おそらく、建て主が高齢になって畑の仕事ができなくなり、それに伴って放置、解体されたとみられます。小屋を建てた主が存命かどうかは知りませんが、「もったいない」という節約の精神が、このような小屋のかたちにしたのでしょう。気持ちは十分にわかります。家の建て替えなどで、まだ使える古い窓やドアがたくさんあって、それを使いたかったのでしょう。ただ、小屋の主にお子さんなどがおられたりすると、親と子とでは育った時代が大きく異なるので、このような一見して粗末なものは、「世間体もわるい」となって、ただちに壊されるのが一般的です。

 この小屋のユニークさは、力強いファサードに尽きます。片流れの屋根に、スピーカーのホーンのような末広がりの正面にし、そこに大胆にも3枚の窓と2枚の扉を張りつけて採光を確保しています。小屋の主は、よほど太陽の明かりを正面から内部へ導きたかったとみえます。物置といえども、明かり窓のひとつもないと、室内は昼でも真っ暗で、使い勝手はよくありませんから。ただ、普通は小さな窓を設けるとか、ドアを開けっ放しにし、外から勝手に入ってくる明かりで用を足したりするものです。この小屋は、その明かりへの執着が尋常ではなく、大変に過激的です。小屋の方角からして、道路側ではなく、朝から日差しがたっぷり差し込むやや東側に振った南方向に向けています。これほど単刀直入に“光り願望”の小屋も希です。

 よく、家を建てるときに「あなたはどのようなマイホームにしたいですか」といったアンケート調査があります。圧倒的に多いのが「明るいマイホーム」で、これは今も昔も変わることがなく、その“明るい”という意味には、物理的な光量の問題のほかに、家族関係とか近隣関係、経済的など、さまざまな願いが込められています。パナソニックの前身、松下電器が「明るいナショナル 明るいナショナル ラジオ テレビ 何でも」と、テレビCMを盛んに流していた時代がありますが、「光の小屋」とそのCMとが、どこかオーバーラップするところがありますね。