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小屋の旅 029 (命をつなぐ小屋)

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29.命をつなぐ小屋

 大切なもの保管しておく「蔵」も、スケール的にみると小さな建物なので、小屋の一種だろうと思います。ただ、蔵による町おこしといった話はよく耳にしますが、小屋によるそのような試みはまったく聞いたことがありません。おなじ小屋でも価値観が随分とちがいますが、写真の小屋は、飛騨市の種蔵という集落の「板倉」で、それが何棟もまとまって残っています。「住む家を壊すようなことがあっても倉だけは守れ、倉は食物や種物を保存しておいて家族の命を守るかけがえのない宝物やから」という言い伝えが、この種蔵地区に残されているそうです。ちなみに“蔵”は「大事なものを隠したり、しまっておくところ」、それに対して“倉”は、「穀物を入れておくところ」のちがいがあるようですが、基本的にはおなじものでしょう。

 その板倉の構造ですが、柱と貫と板壁による単純明快なもので、これで地震の揺れや雪の重みに耐える仕組みです。しかも、その構造がそのまま建物のデザインにもなっていて、たいへん合理的です。火災にも、板壁が分厚いために燃え落ちる前に表面が炭化して耐火性を発揮するといわれ、土壁タイプのものに比べて修理もしやすく、築後の維持管理など多々のメリットがあります。“命”をつなぐ使命を背負った建物だけに、よく考えがめぐらされています。スケールは小さくても力強く、見ていて安心感が伝わってくるのは、そのような機能的な裏付けがあるからなのかもしれません。種蔵集落の板倉は、3層構造になったものもありますが、通常は2層で、1階は穀物や農具、2階に家財道具を収納していたそうです。

 板倉は、飛騨地方を中心に広く見られるものですが、種蔵集落の特徴は、それが家の母屋から離れた場所に建てられていることです。一般的な農作業用の小屋などをみるかぎり、できるだけ家より耕作地に近いほうが便利なのはたしかです。しかし、食糧や財産を守るクラ(蔵や倉)になると話はまた別で、最優先にすべきは防犯対策です。「貴重品は肌身離さず」という警句もあるように、巷でよく見られるクラも、そのような慣習のっとっています。種蔵集落では、そんな一般的な常識を度外視し、命の次に大切なクラを、家からわざわざ離れた場所に置いているわけです。なぜ家から離したのか、あるいは離さなければならなかったのかです。

 火災から守るために母屋から離した、耕作地の近くに置いたほうが便利だったため、湿気を避けるために風通しのよい高台を選んだなど、いろいろいわれているようです。おそらく理由は重層的だと思いますが、急な傾斜地という地形などから、どの家もまとまった宅地の確保ができず、火災に備えて母屋とクラとの距離を十分にとるのが難しかった。それが大きな理由ではないかと思います。そこで心配になるのが防犯に対する備えですが、村びとの目につく場所にクラがあれば、小屋の持ち主以外は不審がられて容易に近づけないわけです。衆人の目にあえてさらして、ゆるやかな監視による抑止力で安全・安心を担保したのではないでしょうか。それともうひとつ感じたのは、蓄財の象徴としての「倉が建つ」クラとは、どこかちがう気がすることです。いわゆる“命をつなぐための小屋”なのですが、種蔵の板倉をながめていると、高山祭の屋台(山車)でも見ているかのような気分になってくるところがあり、その意味では、各地に残る祭りの山車などは、案外と種蔵の板倉のようなクラにルーツがあるのかもしれません。