小屋の旅 030 (のんきな舟小屋)

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30.のんきな舟小屋
 氷見市の海岸沿いに残る舟小屋です。人工物というより、自然発生的な雰囲気をもった小さな砂浜に建つ小屋で、海辺の風景に心地よくとけこんでいます。氷見から能登半島にかけては、かつてはこのような、きわめてのどかな光景がいたるところで見られたのでしょう。2年ほど前までは、この近くにもう一カ所、小さな舟小屋が2棟並んで建っていましたが、いまはどこかへ撤去され、代わりに護岸工事が盛んにおこなわれています。しかも、その工事はこちらの小屋のほうへ向かって進んでいることから、そのうちこの小屋も消える運命にあるのかもしれません。

 4、5棟ほどある舟小屋うち、いまもまともに使われているのは、おそらく1、2棟ではないでしょうか。これまで小屋の付近で漁師の姿を一度も目にしたことがなく、いったい漁をいつし、網の繕いなどはどうしているのかなど、さっぱり様子がわかりません。おそらく、漁師の勤務時間が変則ということもあり、こちらとすれちがいになっているのでしょう。漁としては、刺し網やわかめ、貝などをとっているのではないでしょうか。木造船の時代は、雨や雪から船を守る役割を担っていた舟小屋ですが、船体がFRPになった今日では、その必要はないわけです。けれど漁は季節によって獲る魚介が異なり、それに合わせて網や仕掛けなどもいるので、漁具などがいろいろかさみ、それらをまとめて保管しておく収納スペースが、海や船の近くにあったら便利なのはたしかです。

 舟小屋はどれも妻入りで、間口の広さが一間半ほどと、船の収容を考えて細長いかたちになっています。妻側は両方とも開けっ放しにされ、小屋の内部は常に風が通るようになっています。舟小屋の大きな特徴のひとつは、この風通しのよい構造で、おそらく木で造られた船やそれを収容する小屋は、風を十分に当てて乾燥させてやらないと傷むのも早かったのでしょう。舟小屋はどれも粗野でラフな造りのものが多いようですが、これは漁師の気質というよりも、風通しを求めたところからきているのだろうと思います。ここにある小屋は、どちらかというとまだましといったら失礼ですが、端正で美しい部類ではないでしょうか。

 ただ、写真の小屋は4、5年前のもので、現在は漁師の高齢化もあってか、もっと風化が激しく進んで、まさに風前のともしびといったところです。わが国の漁港は4種類ほどに分類されるそうですが、このような砂浜を根城に、それこそほそぼそと営んでいる漁港を、正式になんと称するのでしょうか。漁港であることにはまちがいないにしても、防波堤に囲まれた近代的な”漁港”とはかなり雰囲気がちがいます。かといって“船だまり”とも異なり、“船着き場”といういいかたも的を射ていません。どうにも不思議な存在ですが、そのようなあいまいなところが、かえって素朴な小屋とは相性がいいのかもしれません。生産性、コストといったものにまったく無頓着な、とでもいいたくなるような、なんとものんきな風景です。