小屋の旅 005 (移ろう小屋)

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5.移ろう小屋
 小諸市だったか東御市だったか忘れましたが、とにかく長野県で見つけた小屋です。なだらかな丘陵地にご当地名産のソバが植えられ、白い花がいまが盛りとばかりに咲き誇っています、という信州らしい名調子の風景です。9月下旬の旅で出会ったもので、手前のそば畑と小屋とは関係があるのかないのか、実際のところよくわかりません。
  この小屋の風景になんとなくこころひかれるのは、不自然さや気取ったところがないためでしょう。農家が畑作業の必要にかられて、手元にある材料を寄せ集めてつくりはじめ、いつのまにかこのようなかたちになった、といった佇まいです。機能性から生まれた民芸的な美しさというと情緒的になりますが、見ていても飽きがこないおだやかなところがあります。
  全体を見ると、いっけん雑な造りに見えます。実際におおざっぱなもので、建て方などはとても荒っぽく、真ん中の棟の窓をひとつとっても、ただ廃品のガラス戸を並べただけで、上部が足らないために、古い板を張りつけて補っています。そのような継ぎ当てすら絵になっていますが、向かって右側の増設棟の屋根も、なぜか少し右肩下がりになっています。これなども意図的にこうしたものではもちろんありません。だけど小屋全体のバランスをみたときに、実に絶妙というか、いい外観になっています。
  この小屋は、これで完成といったたぐいの建物ではないようです。畑で作る農作物の内容に合わせて、時間とともにかたちや機能を変えていく小屋のような印象を受けます。水の流れのように、状況に合わせて常に変容していく小屋ですね。建築の専門家とは無縁な建物で、小屋の持ち主の手作りなわけですが、その本人はおそらく、小屋を造っているという思いはあまりなく、野菜でも育てるように、無意識のうちに小屋も育てているのではないでしょうか。