小屋の旅 022(歌舞伎する小屋)

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22.歌舞伎する小屋

 富山県南砺市にある小屋ですが、ここは平成の合併までは福光町だったところで、昔からドジョウの蒲焼きとプロ野球選手のバットづくりで知られています。県内でも内陸部に位置して水田が盛んなこともあってか、小屋をいろいろ探してみましたが、意外と見あたりません。そんななかで目にしたのが写真の小屋です。石川県との県境に横たわる医王山系から続くなだらかな丘陵地を水田に開拓し、そのご減反によって大豆などを栽培しているところです。小屋はその丘陵地の高台に建てられています。

 私はあまりこのへんの土地勘はありませんが、三方を山に囲まれ、写真の正面、遠くに見える山並みは合掌集落の五箇山白川郷方面で、小屋の前方遥か彼方には北アルプス、背後に迫っている山の裏側が金沢市といった位置関係でしょうか。晴れた日などは見晴らしがよく、ここに立てば、落ち込んだ気持ちもたちまち晴れてくる、といった調子のいい言葉がでてきそうな土地で、たぶん小屋は物置用や作業用というよりも、仕事の休憩用だろうと思います。

 その小屋は、市販の多目的ハウスを高台に運んだだけの簡単なものです。持ち主の小屋への思い入れやこだわりといったものは皆無で、ただ、快適に過ごすためのユニークな工夫がされています。もともと屋外で使うハウスだけに、本体に屋根機能をもっていますが、そこにもうひとつ“置き屋根”をのせているのがこの小屋の特徴です。それによって屋根にひさしをつくり、窓や壁に直射日光があたらないようにすると同時に、置き屋根と本体屋根との間に隙間を設け、そこに風を通して屋根からの熱を遮断しています。さらに、開口部を入口(山側)と窓2面の3方向にとるなど、みるからに開放的な空間になっています。夏の使用を前提にした小屋造りで、入口のドアを開けっ放しにしておくと、真夏でも天然の風が通り、室内は涼しく快適だと思います。それともうひとつ、足もとがしっかりしているためか、全体がキリッとひきしまって、颯爽とした雰囲気をただよわせています。

 ただ、この小屋の写真は、あまりほめられたものではなく、われながらなんと紋切り型の仰々しい撮りかたをしたものだと思います。歌舞伎役者が舞台で見栄をきっているかのような構図は、見ていて恥ずかしくなってくる陳腐なものです。ただ、このアングルで撮るように私に指示したのは、ほかでもない被写体の小屋だともいえますが、その小屋の思惑にまんまと私がはまったという、小屋と私の関係といったところでしょうか。それにしてもきわめて小さな小屋が、これだけ大げさなバック、重圧を背負いながら、微動だにしない力強さはどこからくるのでしょうか。監視小屋のようなものを連想しないこともありませんが、野菜畑といった現場にはいささか不釣りあいな感じもします。