小屋の旅 019 (リゾートと小屋)
19.リゾートと小屋
山にはまだ雪が残る信州は白馬村の小屋です。いまや国際的な山岳リゾート地になってきた白馬村から望む北アルプスの雄大さ、美しさは、まさに圧倒されるというしかないような素晴らしさです。小屋もその白馬三山を中心にした白馬連峰を借景に、「壮麗なアルプスとさわやかな麓の小屋」といったものをイメージしていたのですが、なかなかそのような都合のいい小屋を探し当てることができず、やっとのことでこの小屋にたどり着いたわけです。我ながら、当初思い描いていた小屋と著しくかけ離れ、似ても似つかないものを撮ったなと、あらためて自分のやっていることのいい加減さを写真の小屋をながめながら自覚しているありさまです。
小屋がある周辺は、八方尾根のスキー場や別荘、ペンション、カフェといった観光施設が点在するリゾート地のど真ん中で、写真右側には幹線道路が通っています。小屋の背後に見えるのは建設会社の作業場で、重苦しい機械が並び、おまけに送電線の鉄塔まで顔を出していたりと、とりとめのない雑多な風景を切り取っています。正直なところ「どこがアルプスだ? なにが白馬だ? リゾートはどこにあるのか?」と、いいたくなる意味不明な写真で、唯一、アルプスやリゾートらしいといえるのは、おそらく小屋本体ではなかろうかと思います。当時、この小屋にカメラを向けながら、「建設会社の作業場の小屋にしては、異様に美しいが、リアリティに欠けた小屋だな」と、思ったことを覚えています。
それ以来、この写真の小屋を自分は建設会社の作業小屋としてきたのですが、いまあらためて写真を見ると、どうやらその作業小屋というのが、まちがっていたようなのです。手前の小屋と背後の作業場とは別々の敷地にあるようにもみえ、土地の区割りを見るかぎり、異なる敷地と解釈したほうが理にかなっていて、建設会社とはまったく関係ない小屋のような気がします。どうも、自分の行動のいい加減さにくわえて、ものごとを判断する力のほうも、それに負けず劣らずの二人三脚のところがあるようで、見事なまでにデタラメな私の本質を、この小屋は容赦なくあぶりだしているようにみえます。
小屋は、窓をできるだけ小さくしてあるところをみると、用途は避暑用にすごすハウスではなく、たんなる物置小屋でしょう。色もかたちも単純、明快で、なによりも曖昧なところや不純な要素がなく、現実離れしたハリボテ建築といった表情をしています。そして建設機械や鉄塔といったまわりの生活騒音にもまったく動じた様子がありません。はやい話が周囲の空気をまるで読めていないのですが、そんなことなど気にもせず、堂々と立っていて、その揺るぎない強固な姿勢こそ、3000メートル級の山々の存在感そのものである、と思うわけです。このようなきわめて異質なタイプの小屋をほかに探すとなると、おそらくイヌ小屋かウサギ小屋、それにテーマパークといったたぐいになるか、さもなければもっと現実から遠く離れたアニメ、童話の世界へ入っていくしかありません。だからこそまた、非日常ともいえるリゾート地の空気にはたいへんよく合った小屋だといえるわけですが、なんだか、せこいこじつけのようでもあります。